まあそれでもかなりもててたから、別に気にも留めてなかった。でも考えてみたら、みんなから貧乏なんだと思われてたんだろうなあ。実はかなりな年収だったんだけどねえ──今は昔。
築地に「S月庵」という蕎麦屋さんがある。徒歩デートの最後にそのS月庵に立ち寄ったんだ。立早はそこの「天鴨月見そば」というのが好きだった。鴨南蛮に天ぷらが入って月見にまでしちゃいました。というめちゃくちゃになんでも入ってる、その店では一番豪華な、しかも超大盛りなメニューなんだけど、まだ食欲旺盛だった二人はそれを注文した。
──今はかなり食が細くなってるなあ。別の欲?は超あるんだけどね。
えっ?なにを考えたの。お金だけど?
──そしたらなぜか水が三つでてきた。「ご注文は二つでよろしいですか?」と店員さんが怪訝な顔で聞く。「ええ二つですよ。」当然二人だから二つだよね。
「はあ。お連れ様はなにも要らないんですか…」と去っていく店員さん。
まあそのときは奥さんも私も「でました。お盆特有のジョーク!」なんていってたんだけど、なんか笑えない冗談だな。とも思っていた。
そんなことで、食べ終わってレジに向かった。そんなに広い店じゃないから、レジはかなり近い。で会計を済まそうとすると、レジのオバちゃんが「あらまあ。三人サンなのに二人だけで食べたの?かわいそうに。」
ええっ!最初から二人だったよ。
さっきの店員さんは水を三つ持ってくるし、このレジのオバちゃんといい、何でみんな「お客さんは三名様ですね。」って確信を持っていうの?それって私達と一緒に誰か座ってたってこと?
しかも「いいえ、さっきから二人でしたよ」といったら
「嘘でしょ。三人居ましたよお」ってはっきりいうんだよなあ。
でもって奥の調理場へ「一番テーブル、三名さん座ってたよねえ。」
すると奥からこの店の主人らしき声で「おお。三名さんだよ!」
「でも今こうして、ここに二人じゃないですか。」というと
「確かにそうですね。おかしいなもう一人どこ行っちゃったんだろう」って真顔でいうのよ。レジのオバちゃん。
だってさ、そんなに広くない店で、レジに見つからないで外に出られないよ。それに「かわいそうに」というのがちょっと気にかかった。
つまり、百歩譲って誰かが一緒だったとして、その誰かが“おとな”だったら「食べられないでかわいそう」とはいわないだろ?つまり一緒に居たのは“子供”だよね。私達は思わず店内を見回したよ。
もちろん店内のどこにも子供の客なんて居ない。まあそんなことなんだけど、そのあとしばらくして子供ができた。で私達はこう思ってるんだ。「きっと生まれてくる前のモコちゃん(娘のこと)が、一緒についてきてたんだね。」って。
ね。本当にあったけど怖くない話でしょ?立早は日常「この世に不思議なことなんてめったにない」「幽霊なんてほとんどは勘違いだ。」って言ってるけど、どうしても説明の付かない経験もなかには有るね。